大学入試の難易度が正確に伝わっていないことについて

 大学入試は高校入試とは異なり、全国の高校生や浪人生と競い合うことになります。難関大学や医学部に合格するには、並大抵の努力では達成できません。

 例えば、高松市でトップの進学校とされる高松高校の令和7年度進学実績(学校資料)によると、「東京大学・京都大学・大阪大学・医学部」などに「現役」で合格した生徒は約60名で、これは全体の約2割程度に相当します。にもかかわらず、高校1年生の時点で「みんなが合格できる」と誤解している生徒がいるのは不思議なことです。こうした情報が正確に伝わっていない現状があります。

 また、経済学でよく知られる「パレートの法則(80:20の法則)」は、「上位20%が全体の80%の結果を生み出す」と説明されます。実際、世界の富の大半を上位10%の富裕層が所有しているように、この法則は学力格差にも当てはまる可能性があり、十分に意識する必要があります。

 具体的には、高松高校から「岡山大学」や「広島大学」に合格するには、最低でも上位50%に入る必要があり、同様に高松一高から「香川大学」に合格するには上位50%に入ることが求められます。そのため、これらの大学に合格するためには相当な努力が必要であり、現実には合格できる学力に達していない生徒が大半です。

 それもそのはずで、国公立大に合格するには「3000時間以上」の勉強が必要と言われています。高校1年生の4月から毎日3時間ほど勉強しなくては達成できません。多くの高校生が圧倒的に勉強時間が不足しているため、国公立大に合格できないというわけです。難関大や医学部などになると、4000時間や5000時間という膨大な時間が必要になってきます。そのため、合格できない方は地頭が良い悪いという話ではなく、そもそも合格に必要な勉強時間に達していないだけかと思います。

 高校1年生の時には「旧帝大などに多くの生徒が合格する」と思いがちですが、3年生になると多くの生徒がその考えが誤りだったことに気づきます。実際、高松市の進学校では「高1の時、香川大学などは誰でも合格できると思っていたが、実際には3年生になると合格できる人はそれほど多くなかった」と毎年のように語られています。

 毎日、部活動が終わって家に帰り、1時間も勉強していない。土日もほとんど勉強していない。定期試験の前に焦って詰め込むだけ。その結果、3000時間には遠く及ばず、国公立大に合格するのは夢のまた夢となるのは至極当然かと思います。

 しかし、高3生が「大学入試は思ったほど甘くない」「高1から受験勉強を始めても間に合わないかもしれない」と気づいたとしても、その事実が高1生に十分に共有されず、多くの高1生は「受験はまだ先」と考えて日々を過ごし、気付けば高3生になってしまう――これが毎年繰り返されています。なぜ高3生が得た重要な気づきが、高1生に伝わらないのでしょうか。その点が非常に不思議です。

 高松高校のある先生は「高高生でも国立大学に合格できない生徒や、地方私立大学にやっと合格できる生徒は少なくない。志望校に合格できる生徒は一握りしかいない。入学直後からしっかり勉強してください」と熱心に生徒へ伝えていたそうです。生徒のことを真に思い、しっかりと現実を直視することの重要性を教えてくれる素晴らしい先生もいらっしゃります。

 学校の指導自体が悪いわけではありません。むしろ、都合の悪い情報を伏せ、耳ざわりの良いことだけを伝えてしまう塾や予備校の姿勢にも課題があるかもしれません。極端な話、難関大学を目指させて現役で合格できなければ浪人し、塾や予備校の収益が増えるという構造的な問題も存在します。浪人して合格できる方は一部ですが、その一部を大々的に宣伝して「浪人すれば合格できる」とアピールすれば、次年度も収益が増える――このようなシステムが問題の根本にあるとも言えるでしょう。現役合格を最大化しようというインセンティブが働きにくい点は、塾や予備校の根本的な課題かもしれません。

 

 「浪人すれば上手くいく」と楽観的に考え、安易に浪人してしまい、結局合格できない方は大勢います。浪人して合格できる方の大部分は、現役生のとき「あと一歩」で合格を逃した方です。浪人しても上手くいかないという悲劇的な状況を少なくするには、高1生のときから毎日勉強する習慣、土日の勉強時間を多めに確保する習慣をつけて頂くことかと思います。学校や塾・予備校が最優先でやるべきことは、生徒に「後で後悔させないこと」ではないでしょうか。

 また、志望大学が画一化しすぎていることも課題です。国公立大学だけでも多くの選択肢があるにもかかわらず、ほとんどの生徒が同じような大学を目指しています。これは、生徒一人ひとりの学びたい分野や適性が異なるにもかかわらず、指導の効率化のために志望校が限定されてしまっている現状があるからです。

 ブランドだけで大学を選ぶのではなく、自分が学びたい分野に強い大学を選ぶことも大切です。特定分野に強みがある地方大学や専門分野に特化した単科大学も選択肢として積極的に検討することが良いかと存じます。特に理系の場合は、どの大学でどのような研究を行いたいかが非常に重要です。偏差値だけで大学を選ぶと、自分のやりたい研究ができず、希望する職に就けないというケースも少なくありません。そのため、理系志望者は大学名や偏差値だけでなく、研究内容や専門分野にも注目する必要があります。高校も同じですが、大学も入っただけでは意味がありません。

以上を踏まえ、現役で志望校に合格するための具体的なアドバイスとして、以下を提案します。

  • 高1生のうちから入試を想定した学習(丸暗記ではなく思考力を養う学習・定期試験のための作業ではない本当の意味の勉強)を行う
  • 高1生のうちからオープンキャンパス等に積極的に参加して情報収集を行う
  • 模試で志望校を書く際に、レベルの違う大学を書くことで自分の現在地がわかる
  • 偏差値で大学を選ぶのではなく、将来やりたいことや興味を明確にし、それに合った大学・学部をリサーチする

 このような意識と行動を早期から実践することで、3年間で大きな差が生まれます。一人でも多くの方が、自分に合った進路を見つけ、大学受験を悔いなく終えられることを心から願っています。